喘息を起す体質と初期対応

喘息の体質とは?どうすれば喘息をよくしていけるのか?

1 気管支に炎症を起こしやすい体質

 「どうして気管支喘息などという病気が、わが身に出たのだろうか?!」と不思議に思われた方も多いと思います。原因をしっかり把握することが正しい治療につながります。
 喘息はたしかに、体質や遺伝の影響はあるのですが、そのせいだけにしていれば、自分の喘息は遺伝や体質が変わらなければ死ぬまで治り得ないといっているようなものです。遺伝子を治療しない限り、治らないと思っていることになります。
 また、ダニや花粉、環境のせいだけにしていれば、治るまで転地をくり返したり、家屋を改造したり、悪い空気を吸わないように努力するしか方法がなくなります。
 喘息の原因を単純に一つに絞ることができるケースも存在しますが意外と少ないのです。体質、環境、生育歴、疲労、後天的な体作りの努力など複合的、総合的に関連して、起ることの方が多いのです。人間は総合的であり、病気(喘息)も色々な重なりで発病すると考えた方が正確です。一つだけのせいにしては治すことはできません。
 自分の喘息の原因を複合的、総合的に把握してください。
 ただし、どんなタイプの喘息であろうと、気管支喘息という病気を起こす体質が存在したことが根本原因であることは否定できません。逆にいえば、喘息になろうとしてもなることのできない体質の人はたくさんいるわけです。喘息を起こす可能性のある遺伝子や先天的な要因があればこそ、あなたの喘息は発症したといえます。同時に、体質や先天的な要因が共通しているのに喘息を発病していない人もたくさんいるということも理解してください。
 アレルギー性(外因性でIgE依存性、アトピー性と呼ぶこともある)のタイプであろうと、非アレルギー性(内因性で、非IgE依存性)であろうと、アスピリン喘息のタイプであろうと、喘息の患者さんに気道には共通して好酸球が関与する気道の炎症がみられます。そして喘息発作が同じように起ってきます。つまり、気管支に好酸球が遊出しやすく、炎症を起こしやすい体質が喘息の患者さんには共通してあるのです。この関係は図①のようになります。A、B、Cの体質が加わった人が喘息を発症しやすいのです。全身性ステロイド、吸入ステロイドがこれらの人には効きます。

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 外因性=IgE依存性のアレルギー体質の人は大勢いますが、アレルギー体質の人がすべて喘息を起こすわけではありません。喘息を起こさず、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、花粉症、じんま疹だけの人、生涯無症状の人も数多くいます。同様にすべてのIgE非依存性の人が喘息を発症しているわけではありません。またアスピリンで発疹が出たり、口唇が腫れたりするだけの人もいるのです。
 斜線の部分の人が気管支喘息を起こしやすいのです。そしてIgE依存性とIgE非依存性の円が重なっている喘息もあるし、アスピリン喘息を含め三つとも合併している喘息もあるのです。あなたが喘息を発症した理由は、斜線部分のどれかの体質を持っていたということになります。

2 体質であれば治らないか

 では、喘息の体質があり、発症したのであれば治らないのでしょうか。ここでは、喘息になった理由の一つに体質があったということを説明しただけのことです。斜線の部分の体質を持った人が、生まれた時から喘息を起こしているわけではありません。体質は同じでも喘息を発病しない人は発病した人の何倍もいます。また、同じ体質はあっても「よくなり、治った人」もたくさんいます。
 喘息が起った説明の一つに体質が挙げられるだけの話で、治らぬ説明の一つに体質を挙げる必要はないのです。

3 内因性喘息について追加

 内因性喘息について分りずらいという意見と「すぐ反発したくなる」という意見がありましたので、ポイントを追加します。
 ①RAST(ラスト)で原因を調べてもダニも花粉もカビも食べ物も何にもスコアが出てこず、スコアが0である。血液で幾ら調べても外因性抗原が見つからないタイプの喘息。皮膚のテストや吸入テストでも見つからず特定できない人。外因性とは言えない人。
 ②アレルギー体質の指標となるIgE値が350単位以下(院所によって正常値に若干の巾がある)で正常人と変わらない人。非IgE依存性の人。
 ③アスピリンに過敏な体質ではない人。
 ④自律神経が過敏で気候の変化や温度差、非特異的な刺激に強く影響を受けやすい人。自律神経のバランスが崩れている場合。
 ⑤ストレスが内攻したり、肉体的、心理的な疲労が重なると喘息発作や咳が出やすい人。
 以上のような特徴があります。外因性の原因が特定できない喘息は炎症を内因性に起こしやすい体質が原因なのだろうということで内因性喘息に分類しているのです。成人喘息で発症した人の中にこのタイプが意外と多いのです。

4 最重要な要因は何か

環境要因

 第一に、体質以上に後天的な環境要因が重要です。世界でも日本でも喘息患者が増加していますが、喘息を起こしやすい体質や遺伝子を持つ人が増加したのではありません。環境の変化で、発症する人が世界でも日本でも増加しているのです。
 ①高気密、高断熱型住宅によるダニの増加。
 ②真菌やアレルゲンの増加、ペット、観葉植物の室内への持ち込み。
 ③石油ストーブやタバコの煙、建材や殺虫剤などの化学物質による室内空気の汚染。
 ④大気汚染の深刻化(工場や自動車の排気ガス)。ディーゼル排気ガスが喘息の原因になっているという国立環境研究所の嵯峨井先生の指摘は重要。
 ⑤食品への薬品使用、農薬などの人口化学物質の混入、加工食品の氾濫。
 ⑥寄生虫の減少(寄生虫が体内にたくさんいる国では喘息患者が少ない)。
 ⑦ストレスの増加など。
 このような環境要因の悪化や変化が喘息患者の増加を促しているのです。内外の環境を改善したり、整えることができれば、喘息や発作が少なかった時代に戻ることができるのです。

自然治癒力

 第二に、自然治癒力、心身をコントロールする力が重要です。
 体質も同じ、環境が同じでも喘息を発病する人としない人があります。一卵性双生児、二卵性双生児で体質が同じ、同じ家庭で育てられても、必ずしも二人とも両者が喘息を発病するわけではありません。兄弟姉妹、親子がすべて喘息になるわけでもありません。喘息の発病しやすさに違いがあったからといえます。それはとりもなおさず、発病しにくくする自然治癒力や心身のコントロール力に差があったからだと言い換えることができます。
 この自然治癒力やコントロール力は喘息が発症した後にも影響します。小児喘息の発作を起こした子どもが治癒していくのは、遺伝子や体質が変わったからではありません。成長とともに不利な条件を克服する心身のコントロール力、自然治癒力が増加したからに他なりません。IgE値やRASTのスコアに変化がなくても、「よくなり、治っている」のです。自然治癒力の増加が不十分だった子どもの喘息が、成人喘息に持ち越されていくのです。
 成人喘息のばあい、体質や環境がそう変化しなくとも、心身のコントロール力や自然治癒力が低下した結果、発症する人が多いのです。「風邪がもとで発症した」と語る人がほとんどであることをさきに紹介しました。しかし、風邪はそれまでに何回もひいたことがあるはずです。なぜその時の風邪がもとになったのかは、風邪だけでない別の原因に目を向けねばなりません。正しい指導や前向きの努力で心身のコントロールや自然治癒力が回復し、体質や環境のハンディを上回ることができれば、「よくなり、治る」のです。

初期対応

 第三に、初期対応が大切です。
 誰でも、喘息と診断されるまでは風邪が治りにくいとか、なかなか治らない気管支炎だと思っていたわけです。喘息発作が出て、喘息と診断されてはじめて病気が出たことがわかるのです。それまでは誰に喘息が出るなどということは医師にもわかりません。病気が出た時の初期対応がよければ、軽いうちに早く治すことができます。早期の治療が大切なことは、宮城喘息大学の佐々木泰夫先生の成績ですでに紹介しました。皮内テストなどの皮膚テストやRAST検査を参考にしながら、環境の面で指導を重ねれば、早期の喘息ではすぐよくなる人もいます。
 一例を挙げれば、最近増加の目立つウサギ喘息です。ウサギを室内で飼うことになり、しばらくすると、咳が出て、喘息発作が出るようになった人がいます。体質や環境に変化はなく、新たな変化はウサギが増えただけです。その人は、RAST検査でウサギ喘息を確認し、ウサギを友人に譲りました。その人の喘息は治りました。
 この例のように、早目にキチンとした対策をとれば、気道の炎症は慢性化・重症化することなく済みます。しかし、原因もわからずに放っておくと気道の過敏性は高まり、たとえばウサギ以外の気象条件や他の刺激でも喘息発作を起こすようになっていく危険があるのです。
 初期対応、指導の問題としては、
 ①病気の説明。
 ②環境や生活の仕方に対する指導。
 小児喘息向けに「ぜんそくさん、ありがとう」の一部を紹介します。

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 ③よりよい薬の使い方の指導。
 吸入についてはこんな上達の方法があります。

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 こういう情報・満載の勉強が必要です。
 ③よりよい薬の使い方の指導。
 ④根本的によくし、治していく道筋の説明や本の紹介。
 ⑤薬を徐々に減らす指導。
 があります。
 一度にすべてはできないにしても、①②はまず必要です。③の薬の使い方の指導も絶対に必要です。これらが初期に十分に実行されていれば慢性化したり、重症化する危険の多くを回避することができたでありましょう。初期の人も、慢性化、重症化してしまったという患者さんも①~⑤の点について、「喘息をよくし、治す」、2003年5月に発刊された「喘息患者学入門」―21世紀初頭の薬物治療と上手な日常管理法―、「ぜんそく」、小児喘息関係者には「小児喘息患者学入門」「ぜんそくさん、ありがとう」を読めば、初期対応を完全にマスターすることができます。これまで評判の良かった「みんなで治す小児喘息」が絶版となりました。復刻版を1,000円で作りましたので、御希望の方はお求めになって下さい。
これらの本の紹介は著書等の紹介・購入はこちらに紹介してあります。

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