気管支喘息の薬について

喘息の薬について(2012年5月改訂)

 喘息の薬の欄をもうけました。私たちのホームページは喘息大学23年の歴史、11回に及ぶ成人喘息ゼミナールの歴史、石川県喘息友の会、日本喘息患者会連絡会の長い歴史の上に成立しているので、どちらかというと高度な内容提供を追及してきました。
 しかし、訪れて下さる多くの方々が、「まず初歩的な知識を知りたい」、「どうすればもう少しよくなるか」を求めておられることを知りました。そういう方々が何回でも、到達段階に応じ、利用頂ける欄としてこの欄の充実をこれから図ります。当面は「自分の持ってるクスリはどれか」、「次にどれを試せばよいのか」知るような場所として御活用下さい。
 「やがては喘息のクスリ全部について紹介、解説できるように改編を図ってまいります」とこれまで書いてありましたが、2010年までの主な喘息関連薬について、『これでわかる喘息とその合併症のお薬ハンドブック』(合同出版)に集録し、市販しました。(後述)

1 薬の基本的な説明

 喘息の症状を抑える治療(対症療法と言う)として薬は大変重要なものです。
 飲んでいれば、あるいは注射をしていればやがて、体質が変わり、完全によくなると証明されてる根本的な薬はありません。 「そういう名目を宣伝して売られてる」という薬があるだけです。「中止すると元に戻るということや、風邪や疲労が重なるとまた発作が起る」ならば体質が変わったり、治ったりはしていないということです。
 最近はよい薬が出来ていて、自分の状態に合わせて増減しておれば、喘息発作や喘息の症状で苦しまず生活を送ることができるのです。

2 写真を示しての解説

「喘息をよくし、治す」清水 巍著(合同出版)より引用。

Ⅰ) ステロイド薬

ステロイド薬には 吸入薬、内服薬、注射薬、塗り薬があります。

 

ステロイド薬

1) 「吸入薬」について

 ステロイドというと副作用を頭から恐がる人がいます。しかし吸入薬は気管支局所に留まるので全身的副作用は起こしません。アトピー性皮膚炎などへの局所的な強いステロイドの塗り薬は副作用を起こします。気管支は皮膚と違って粘膜面に線毛構造があって1分間に0.5mmから1.4cmの速さで気道粘液を移動させているのです。ですから吸入薬は長時間とどまることができず、1日2回程度吸入する必要が出てくるのです。従って局所的副作用も少ないのです。
炎症を抑える有効な薬です。吸入補助具(インスパイアイース、ボルマティック、オプティヘラーなど)を使った方がよいでしょう。
 私たちは食前の吸入を勧めています。吸入したあと10回ぐらいウガイをしましょう。口をすすぐだけでなく、上を向いてウガイをしましよう。それから食事にすれば唾液や食物で喉についた吸入薬が洗い流されて副作用(喉嗄れや、食道、胃カンジタ症)が少くなるのです。
ステロイド吸入薬の新薬がこれからは主流になります。それらは一番最後に紹介しました。

2) 「内服薬」について

 これは毎日、長期に続けると必ず副作用が起ります。1日6錠を3日間ぐらい飲んで、3ヶ月~4ヶ月は止めているという、緊急治療薬として使うなら大変便利な薬です。そういう使い方なら副作用の心配はありません。お守りとして有効です。
 長期に毎日使っていると自分の副腎が「働かないようにして副作用から身を守り始める」のです。やがては働かないようになり、薄くペラペラになってきます。そこで急にやめると副腎不全症候群を起こして、危険な目に会います。慎重に医師の指導のもとに減量して下さい。

Ⅱ) 気管支拡張薬(交感神経刺激薬)【吸入薬】

気管支拡張薬

1) 「吸入薬」について

 人間の自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は気管支を広げるように働くのです。発作時に1~2吸入を使うのは構いません。1日6吸入以内にした方が無難です。
図左下の副交感神経遮断薬は気管支を収縮させようとする副交感神経の働きを遮断して、交感神経の働きを助け、気管支を拡張させようとする薬です。
 セレベントという長時間作用型の気管支拡張剤は末尾に紹介しています。

2) 「内服薬」について

 前掲の吸入薬の成分を内服薬にしたものです。血液の流れに乗って全身を回りますので、人によっては動悸、手のふるえがきます。最近ではあまり使われない傾向にあります。

Ⅲ) テオフィリン系 気管支拡張薬(テオフィリン製剤)

 

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 お茶やコーヒーの成分に似た成分で拡張作用(収縮防止作用)があることから広く使われてきました。ユニコンとかユニフィルは長時間効くような調整がされたものです。
 薬物血中濃度(測定してもらう必要がありますが)は5~20ugであれば安全とされています。
 静脈注射や点滴の中に入るアミノフィリンやネオフィリンというのはテオフィリン系のクスリです。

Ⅳ) 他の薬

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1) その他

 テオフィリン系のクスリに他のクスリを入れた合剤です。

2) 抗ヒスタミン薬

 喘息の人はアレルギー性鼻炎や皮膚のカユミを訴える人が多いので、抗ヒスタミン薬がよく使われます。ゼスランは抗アレルギー剤として開発され、そういう効果もあったのですが、安い方の抗ヒスタミン剤に分類されたため、抗アレルギー剤より安く使えるようになりました。

3) 去痰薬

 痰を切れやすくする薬です。しかし使用したからといってすぐ痰がポンポンと飛び出すようなほど効果を出すものではありません。出しやすくするという程度に効く薬です。飲んだり吸入しても効果の出ない人もいます。 

Ⅴ) 抗アレルギー薬

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1) 吸入薬

 インタールはイギリスのコックスという医師が発見したものです。ダニや花粉などのアレルゲンによるアレルギー反応を予防する効果があります。運動誘発性喘息の予防にも効果があります。副作用はそう多くはありません。

2) 内服薬

 いわゆる抗アレルギー薬として高い値段がつくので多数開発されました。抗ヒスタミン作用のあるものと、そうでないものとに分かれます。効く人は使えばよいのですが、効いてもいないのに漫然と「心配だから」ということだけで継続している人もいます。中止して何の変化もなければ中止しても構わないのです。元々と同じだからです。

Ⅵ) 漢方製剤

 

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 喘息患者さんによく使われるのを紹介しました。効く人は続ければよいでしょう。但し、これまで紹介してきた内服薬とダブル漢方薬もありますので、使用にあたっては医師と相談して下さい。

Ⅶ) 注目すべき薬剤

詳しくは「喘息ホットニュース」のバックナンバーで紹介しています。 基本的にはこれから下に紹介するものがよく使われています。

1) ホクナリンテープ

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ホクナリテープ

24時間効く、張って効かす交感神経刺激薬の気管支拡張剤です。手足や頭を除くどこに張っても構いません。カブレる人は使えません。動悸、手のふるえのある人はmgの少いものを使うようにして下さい。最近はジェネリックの製品も出ています。
2) シングレア、キプレスの内服薬

kipres

 ロイコトリエン受容体拮抗薬として発売されたものです。喘息を起こす物質としてロイコトリエンという物質が関係する人がいます。そういう人にはよく効きます。1~2週間使って効果の出なかった人はロイコトリエンはあまり関係していない人です。寝る前に1錠を服用します。


シングレア10mg

シングレア10mg


キプレス10mg

キプレス10mg


シングレアチュアブル5mg

シングレアチュアブル5mg


キプレスチュアブル5mg

キプレスチュアブル5mg


3) パルミコート
パルミコート
 ステロイド吸入薬の新薬です。持ち運びに便利で秀れた吸入器です。副作用が少く効果的です。唯一の欠点が「吸った感じがしない」という程の贅沢な悩みを持つ薬です。
4) グラクソ・スミスクライン社製品
グラクソ・スミスクライン社製品
 喘息について色々とクスリを出しています。フルタイドは画期的なステロイド吸入薬として広く使われました。改善されたのがディスカスです。
 セレベントは12時間効果を持つ交感神経刺激気管支拡張剤です。それを1日2回使っていて、なおかつ発作があった時はサルタノールという最も副作用の少い交感神経刺激薬を使うのです。
5) キュバールも
 キュバール
 ステロイド吸入にはキュバールも使われるようになりました。細気管支や肺胞に到達し有効性を発揮するとされています。「喘息患者学入門」の口絵に紹介されている写真を紹介します。本文中には小児喘息用にフルタイド50エアーが発売されたこと、諸外国ではセレタイド、シンビコートが主流になり、やがて日本でも主流になること、モメタゾンやシクレソニドという新しいステロイド吸入薬が開発中であることが書いてあります。
7) 副作用対策

 嗄声、鼻や耳、皮膚の症状悪化、全身の臓器への影響が起こることがあります。好酸球性中耳炎で悩んでいる人も多くいます。匂いが戻る方法、好酸球中耳炎に対する最新の対策なども上記の本に詳しく掲載していますので学習してみて下さい。

8) パルミコート吸入液
パルミコート吸入液
 「ぜんそく」(新水社刊)より
日進月歩のステロイド吸入
 パルミコート吸入液(水溶液)が、日本で乳児、幼児向けに使用許可されました。0.5mgと0.25mgの2種類で電動ジェットネブライザーで吸入します。
 アストラゼネカ社製の吸入ステロイド剤です。これまで乳児や幼児は、粉末のステロイド剤吸入やエアー製剤の吸入が困難である場合が指摘されていました。拡張剤の吸入液を混ぜて、吸入投与が可能となるので福音です。ヨーロッパでは、成人や老人にも使用することが、許可されている国があります。
9)スピリーバ
スピリーバ
 「ぜんそく」(新水社刊)より
これまで肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPDとも言う)という病気になった場合、「薬物治療としては効果がないので、悪くならないようにするしかない」と、よく言われてきました。スピリーバという長時間作用型吸入気管支拡張剤(カプセルに入った粉末の吸入薬)が2004年に日本ベーリンガーインゲルハイム社とファイザー社から同時発売されました。1日1回、ハンディヘラーという携帯用の吸入器に入れ、穴を開けて吸うのですが、肺気腫の人に特に効果の出ることが多いのです。

 喘息と肺気腫が合併している人、タバコを飲んできて喘息がひどくなり、階段や坂を登れなくなった老人喘息の人に試してみる価値があります。これまで山に登るなんて夢のまた夢と言っていた人が、スピリーバを使用することにより、近場の山にゆっくりゆっくり登ることができたと嬉しそうに語ってくれたことがありました。しかし、行動範囲が広がって、β2吸入刺激剤を持たずに、その人はまた1人で山に登りました。途中で苦しくなり、とうとう帰らぬ人となってしまいました。よくなったからと言って過信はできません。
 「どうせまた、効かない薬だろう」と疑心暗鬼だった人から「今度はよく効いた」という感想をもらったこともありました。すべてのCOPDの人がそうなるわけではないでしょうが、絶大の効果のある人もいます。発売から1年経った2005年1月からは長期投与が可能となりました。効く人に喜ばれています。
 副交感神経遮断剤の系統の薬なので、緑内障や前立腺肥大がある人には使えません。副作用もアトロベントやテルシガンと同じであります。
肺気腫の人にもセレベントやステロイド吸入、テオフィリン剤の内服が効く場合もあります。腹式呼吸や呼吸筋の増強というリハビリをしながら、肺の中を圧迫するのう胞や気腫の部分を切除して、楽になったという人もいます。望みを捨てずに治療を継続して下さい。
 タバコは厳禁です。薬の効果が無くなります。

10)注射薬
ゾレア

 「ボスミン」は急激な気道収縮による呼吸困難発作に速効性のある交感神経刺激剤。「アミノフィリン」「ネオフィリン」などは発作を一時的に抑えるために静注、点滴などに入れて使われるテオフィリン系薬剤。「全身性ステロイド剤」も静注、点滴の中に入れて使用されることが多いです。ほかに「ヒスタグロビン」「ノイロトロピン」、金製剤の「シオゾール」があります。

「ゾレア」
 高用量吸入ステロイド薬など複数の治療薬を使用しても、喘息症状がみられるなどコントロール不十分な難治患者で、体重が30~150kg、IgEが30~700国際単位/ml、アレルギー抗原(ダニ、花粉など)に対して陽性反応を示す(アレルギーがある)人が対象となります。2~4週ごとの皮下注射で、遊離しているIgEがマスト細胞に付着しないように作用して抗アレルギー効果を示します。効果の判定は原則として、投与16週後(4回あるいは8回の注射)の受診時に総合的に判断されます。2009年3月、保険適応になりましたが、高価な薬なので、医師と相談の上で使用を決めて下さい。

Ⅷ) 合剤

 長時間作用性の気管支拡張剤と吸入ステロイド剤の2種類を吸入したほうが、喘息のコントロールには効果的であることがわかり、世界的に広がりました。1回の吸入で、その2種類の薬が入るようにしたものが合剤です。

1) アドエア

 長時間作用性の気管支拡張剤「セレベント」と、吸入ステロイド剤「フルタイド」の2種類の薬を含む合剤。広く普及しています。2種類の薬を別々に吸入する手間が省け、また、両方の薬が同じ場所に沈着することで効果が大きくなるのです。
 粉末製剤とエアゾール製剤の2種類があります。粉末製剤は自分の吸う力で吸入できるため、噴霧のタイミングにあわせて吸入(同調)する必要がありません。エアゾール製剤は同調の必要があります。ただし、スペーサーを使用すれば同調の必要がなく、吸入力の弱い高齢者でも吸入可能です。どちらも強力な改善効果があるため、喘息を安定させるのには役立ちます。粉末製剤は嗄声(させい:声がかれる)の副作用が出ることがより多いです。また、どちらもカウンターがついているので、残り回数のチェックができます。
 粉末製剤は含有量と回数の違いで6タイプ、エアゾール製剤(アルコール臭はない)には3タイプありますが、どれを使用するかは、症状と経過を見て決める必要があります。器具の扱いやすさや吸入時の使用感も薬剤選びのポイントとなります。「アドエア250ディスカス」と「アドエア125エアゾール」は慢性閉塞性肺疾患(COPD)にも保険適応があります。

アドエア

アドエア

アドエア

2) シムビコート

 「ホルモテロール」と吸入ステロイド剤「パルミコート」の合剤で、粉末の吸入剤。最大の特徴は、①すぐに効果が感じられ、②長時間の拡張効果を持ち、③気道の炎症がとれる、という3拍子揃った効果があることです。平均粒子径が2.4μmで、中枢気道にも抹消気道にも効くとされています。1日の吸入量は、1~8吸入(4吸入×2回)と選択の幅があります。1回で吸入する粉末は、吸った感じがしないというほどごくわずかで、喉への刺激が少ないという特徴があります。薬が吸入できているかどうかは、濃い色のハンカチを当てて吸入し、薬剤の白い粉末が布に付着しているかどうかで確認できます。
器具は「パルミコート」と同じ形ですが、下端が赤色でカウンター(残量表示)が付いているので見分け可能です。薬剤がなくなっても振ると乾燥剤の音がします。

シムビコート

 以上、薬の紹介をしてきました。「喘息をよくし、治す」「喘息患者学入門」「小児喘息患者学入門」(以上、合同出版)「ぜんそくさん、ありがとう」(愛育社)「ぜんそく」(新水社)には、もっと詳しく説明が載っています。しかもガイドラインにもとずく紹介となっています。「これでわかる喘息とその合併症のお薬ハンドブック」は、2010年中の薬まで、殆どが写真入りで解説されています。
(これらの本の紹介と購入方法は、わかば会HP http://www.wakabakai.org/cgibin/html/syoseki.htm に紹介しています)
 これからの吸入薬は合剤が主流となり、ステロイド吸入はパルミコート、ディスカス、キュバール、オルベスコが続くということになるでしょう。このホームページをご覧になった方は、色々と使い比べを実際にして、ご自分に合うよいものを選んで下さい。わかば会の会報や、清水先生の著書、喘息ホットニュースなどはそのお手伝いをしています。

 「シンビコートSMART療法」の解説をわかば会員900名(石川県内会員400名、全国の他都道府県会員500名)に会報「わかば」8月号に紹介しました。一例として参考に御覧になって下さい。
 「わかば」には、このように新しい情報が紹介されています。