喘息をよくし治すために(2006)

167. 期待と不安、それを突き抜けて希望の実現を

喘息をよくし治すために(167)
喘息大学学長 清水 巍

 あけましておめでとうございます。12月の末は日本列島全体が寒波や雪に見舞われ、大変だったろうと存じます。それを突き抜けて新年を迎えました。皆様にとって希望が実現する輝かしい1年でありますように冒頭に新年の御挨拶を申し上げます。恒例によって野口正路さんの「新年に贈る言葉」(土曜美術社出版販売)から詩を引用し、紹介します。

わたしの庭に
あなたの声がひびくと
夜明けの樹木のように
あなたの姿があらわれる
その時わたしたちは
あなたとわたしだけではなく
その交感のひびき合いのなかで
予感のひかりにくるまれる
それはなにかしら未知の芽の
ひそかなよろこびのように
あらたな年の
しずかな序曲となって
わたしの庭を明るくする

 「わたしの庭」という表現は「わたしの心」に置き換えてもよいし、この「わかば」に置き換えてもよいのではないでしょうか。あなたや私の声が実際に聞こえてくると、聞こえたとか交感したということに滞まらず、未知の芽のひそかな喜びのように希望が宿り、庭や心、この「わかば」を明るくするものです。
 石川県喘息友の会総会と新年会は1月29日(日)ホテルイン金沢で開催されます。私の講座はそこで例のごとくありますが、特別講演には「北陸学院中学校・高等学校」校長の堀岡啓信先生に来て頂くことになりました。若くてハンサムな牧師さん、クリスチャンでありますが、なんと校長先生になられたのです。
 小松に住んでおられた時に喘息で私の外来に来られました。喘息日誌とピークフローの記録をつけておられ、キプレス(ロイコトリエン受容体拮抗剤)1錠を内服するだけで良好なコントロールが得られるとわかったのです。「今度、金沢に住むことになりましたので、城北で先生に診てもらいます」と言われました。「どうぞ」と申し上げて、城北で診察させて頂いてきました。「金沢で何をしておられるのですか?」と聞いたところ名刺を頂きました。校長先生だったのです。
 クリスチャンの方だけがそうだというわけではありませんが、通院予約日をいつもキチンと手帳に書き込まれ、予定を変更されたことがありません。キプレス1錠と定期的な健康管理、診察のために、ずーっと通われているのです。
 日野原重明さんは94歳で現役ですが、そのぐらいまで活躍される人なのかもしれません。昨年度は仏教の立場からお話を聞きましたが、今年はキリスト教の立場からのお話を聞こうというのです。
 今年は下のような年賀状を出しました。

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 12月号の編集後記に孫の写真を載せさせて頂いたところ、まだ海のものとも山のものとも分からないのに「先生に似てるよ」などと言われて喜んでおりました。神奈川に出張しているパパのところへ行ってしまったので、会いに行ってきました。その時、久々に対面したシーンを年賀状に載せました。私の目尻が下がり、患者さんを見ている時と同じように(?)嬉しそうな顔をしているんですね。
 まだ男の子が結婚しておりませんし、孫はたったひとりです。ひとりでもこうですから、二人三人となったらどうなるのでありましょう。珍しくもなくなるので、愛想が悪くなるかもしれません。
 この頃、幼児を連れ回ったり殺害するなどという事件が後を絶ちませんので、期待と共に不安もつきまといます。しかし、それを突き抜けて、希望のかたまりのような孫や小さな子どもさんの健やかな成長を願わずにはおれません。
 テオフィリン系薬剤の小児への使用が不安であるということで、色々と問題となっております。「小児喘息ガイドライン2005」の改訂に基づく注意書きを今後紹介していきます。期待と不安を乗り越えて、正しい考え方や使用をしていく必要があります。小児喘息は2005年度には、数がまた過去最高を記録しました。お母さんやお父さん、そして何よりも小児喘息のお子さんの不安を取り除き、期待に応えるため、合同出版から小児喘息のための本(松本先生、高村先生と私の共著)と、夢ら丘実果さんの絵本が出ます。希望の実現に役立つのではないでしょうか。
 医療費の負担増、医療制度の改悪の不安もあります。年齢も1才増加します。そのような不安を乗り越え、どのようにして希望を実現していくのか、新年会、今年1年で皆様と共に考える年としましょう。

168. 希望の実現はつながりの充実で

喘息をよくし治すために(168)
喘息大学学長 清水 巍

 寒い冬が続いております。この雪の下で、土の中で、じっと耐えながら、万物は春への準備をしているのでありましょう。
 石川県喘息友の会「わかば会」は1月29日に総会を持ち、1年間の方針と役員体制を決めます。それも春への準備ということができます。春にたくさんの「わかば」を茂らせて、よい季節、よりよい状態を作るためにも皆様の会員更新が必要です。城北診療所の外来で、郵便振替で、ITわかばで、2月と3月に振替用紙などを入れますので、会員の更新をお願い致します。
 自然の春は毎年、毎年、季節と共に訪れます。人間にとって、よりよい春というのは「つながり」の充実によって、もたらされるのではないでしょうか。胎児が成長し生誕を迎えられるのは、お母さんのへその緒を通じた絆によって、栄養が送られるからです。生まれてからの1年、1年の成長はオッパイやミルク、人と人との絆によって得られます。その連続によって、皆さんのよりよい現在があり、今日が築かれました。これからも、年は1年とったにしても、よりよい春、1年1年を絆の充実で作ってまいりたいと思います。
 ゼミナールに参加し続けて来られたMさんは関東地方から参加されたのですが、「点滴やステロイドで自分も大変な目に会ってきたし、子どもも喘息で大変だった。ゼミに続けて参加し、関東喘息患者交流会に毎年参加し随分とよくなってきた。点滴もしがなくなったし、グリーンゾーンに入った。気付きも得られ大きく変化してきた。沢山の先輩や友人、先生方の指導や励ましのおかげである」と語っておられました。
 関西から昨年初めて第4回成人喘息ゼミナールに参加されたSさんは「もし、清水先生や皆さんに出会うことがなかったら、今も苦しく不安な日々を送っていたでしょうね」と語っておられます。
 このような「つながり」を維持し、充実させることによって、人間には変化し充実した春が得られるのではないでしょうか。皆さんもそうでありましょうが、私も今年に年賀状を頂いて、つくづく感じました。私たちと「つながり」を持っていらっしゃる方は、年々よくなっておられるのです。「これで6年間、全く喘息が出ません。自信がつきました」とか、嬉しいお知らせが年々、多くなっているのです。
 「つながり」を充実させていけば、そのような前進ができるということではないでしょうか。希望の実現もできるということです。今年度も「わかば会」の更新をよろしくお願い致します。また第5回の成人喘息ゼミナールの参加〆切は3月31日、定員は50名となっております。もう参加申し込みがありますが、早めに参加申し込みをなさってください。喘息健康クラブ(A.H.C会員、Asthma Health Club)会員として健康管理の増進を図ります。
 下に金沢で降った雪の写真と地域の人を訪問した時の写真を掲載しました。

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 地域の人々が大雪の中にある時、一人暮らしの方を訪問したり、屋根の雪おろし、除雪のお手伝いをしようと出かけた時のものです。病院や診療所の患者さん、地域の患者さんとの「つながり」を充実させることも、よい地域をつくり、よい医療を作り上げるために大事なことです。この訪問は「さすが城北病院」と喜ばれました。
 2月、3月は石川県知事選挙のある時節です。私が出るということはありませんが、新しい県政をつくる県民の会の代表委員をしている関係で、応援活動が多くなる予定です。県内の各団体や県民とのつながりを強化し、石川県が「県民のための県」になるよう微力を尽くしたいと思います。そういう希望も、つながりの強化で実現したいものであります。
 先日、F15が沖縄の海に墜落したという報道があり、緊急に石川県知事に申し入れを行いました。「先生、テレビに出ていたね。ビックリした」などという感想を外来でお聞きしました。テレビ各社が来ており、「インタビューに応じて下さい」と言われたので応じました。「沖縄の嘉手納基地機能を小松基地に一部移転するという話があるのに、それは小松市の問題だとか、国の問題だとか、正式に決まっていないとか石川県知事が言っているのは、無責任だ」と言いました。「反対せず賛成している」としか言いようがありません。
 国民保護計画も石川県が決定したので、来年度に北の方から入ってくるという想定で訓練があるそうです。「石油が一滴も出ない北朝鮮が日本に攻めてきたら、サダム・フセイン以上にとんでもない目にあうこと」ぐらい知っていると韓国の人が語っていました。「攻めてくる」という宣伝で憲法9条が変えられたり、国防訓練が行われようとしています。社会保障も改悪され弱者切り捨てで大変です。
 つながりの充実によって、よりよい家族、わかば会、県政・日本を実現する大事な時期にさしかかっています。

169. 春の希望

喘息をよくし治すために(169)
喘息大学学長 清水 巍

 毎日、雪が降るという冬が遠ざかって暖かな日射しが青空から降ってくるという朝もあるようになりました。春はもうすぐというのを、皆様も実感しておられることでありましょう。寒い冬だっただけに、今年の春の訪れはとりわけ待ち遠しいし、喜びに変わるのではないでしょうか。
 新潟県では水害、地震、大雪に見舞われて、とりわけ大変だったでありましょうが、上越地方で開催される4月15日(土)の総会、16日(日)の講演会案内が今号の「わかば」に掲載されました。それ一つをとっても、春の訪れと共に喜びとして感じられるでありましょう。
 トリノオリンピックが終わりました。清水宏保選手も喘息をコントロールしながら頑張ったけれども18位に終わりました。心から「ご苦労様、お疲れさまでした」と申し上げ、この12年間の奮闘と栄誉、32才だそうでありますが、その輝かしい頑張りを讃えたいと思います。この春は再挑戦のスタートとなるのか、コーチなど別の道を歩むことになるのか分かりませんが、思い出深い、意義ある春になるでありましょう。
 グラクソ・スミスクライン社が2月1日から全国のテレビCMで清水選手の喘息のことを流すとプリントで明記していましたが、予定が変更されたようです。この「わかば」が届く頃、喘息克服、コントロールの象徴として登場するに違いありません。
 「発作を止める」のではなく、「発作を出さない」方向へという呼びかけは、これからの時代のスローガンとなることでしょう。
喘息のコントロールテストを後につけました。
 その放映を通じて、喘息の人が勇気をもらうだけでなく、インターネットのアドレスが画面に出ますので、それを通じて私たちのホームページに訪れる人も増えると思われます。リンクしてあるからです。そして「喘息がよくなり、治っていく道」を見つける人も多く出るでありましょう。初めて私たちのホームページに辿り着いたり、わかば会員になられたり、5月に開催される第5回成人喘息ゼミナールに参加された人は、長い冬が終わって「春」を迎えた心境になるのではないでしょうか。
 季節の春を共に迎える喜びだけでなく、喘息をよくし、治していく春を共に迎えられるようにすることは何よりもの喜びです。その第5回成人喘息ゼミナールでは、超有名な人を特別講演に迎えるべく準備中なのですがまだ決定していません。駄目になった場合、次の講師も予定しています。しかし、駄目になった場合、もっといい講師はいないのか?本当に参加者に喜んで貰える講師はいないのか?探していました。ある人の名前が浮かんできたのです。この人に来てもらえば(相手の都合もあるのですが)という希望が涌いただけで、梅や桜が一斉に咲いた感じがしました。
 先に希望が見えるというだけで、心の花園には春の花が一斉に咲いたような喜びを感じることができるのです。春の希望というのと同じではないでしょうか。
 今年の冬は幸い、鳥型インフルエンザの流行は日本ではなかったようです。これからは杉花粉、ヒノキ花粉が猛威をふるいます。去年ほどひどくはないと言われてはいますが、2月に晴れ間があった日には必ずと言ってよいほど「顔がカユイ」とか「目も鼻もグシャグシャです」という人が外来に来ました。杉花粉での減感作療法を私どものとこで受けている人は「平気の平佐」なのです。これまでと違ったよい春を迎えることができたのです。
 3月、4月は少し暖かくなってきますので、油断が生まれます。肺炎になる人が多いのです。20%ぐらいの肺炎は予防できる時代になりました。「肺炎双球菌ワクチン」というのが広く行われるようになりました。アメリカでは65才以上の半分の人が受けています。肺炎で重症化したり、死亡する危険を減らす希望が生まれたのです。詳しくはインターネットで公開されている情報をこの後に紹介します。

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 城北病院や寺井病院、石川民医連の各院所では5300円という全国から見ると安い料金で注射することができます。5年間は有効です。補助を出している自治体もありますが、保険は効きません。私費で受ける必要があります。
 このような医学の進歩の知識をしっかり身につけるだけでも「わかば」の値打ちがあります。3月は最後の更新の時期でもありますので、更新されてよりよい春を迎えて下さい。知識を増やし、新しいことを実行するということは、これまでの自分よりも、よりよい自分を作ることです。「わかば」や第5回成人喘息ゼミナールを通じて、よい考え方をいくつか身につけ、これまでの自分とは違うようにするということも、よりよい春を迎えることに連ながります。春はまた、いずれ過ぎて行くではありましょうが、これまでにないよい春、自分の健康、身体、生活、心を作る季節にしていこうではありませんか。
 4月号からの表紙は空色にします。地面の色から蓮の葉の緑になり、3月までは花を咲かそうとピンクにしてきました。いよいよ天まで昇り、青空の年にしたいという意味を込めた空色です。御一緒にこの春、各種の「希望」を実現していきましょう。

170. 桜が咲いて、春の盛りに

喘息をよくし治すために(170)
喘息大学学長 清水 巍

 ようやく桜が咲いて、わかば会の若葉が芽吹く頃となりました。次々と春の花が咲き始め、皆様の土地も庭も花で溢れかえっている頃でありましょう。
 私が金沢大学に入学する頃(随分と前の話になりますが)、合格すると「ケンロクエンサクラサク」という電報が打たれることになっていました。不合格だと「ニホンカイナミタカシ」でした。それで分かることになっていたのです。
 4月は幼稚園の入園式、小、中、高の入学式があります。ピカピカの1年生が学校に通います。真新しいランドセルを背負った1年生が登下校する姿を見ると、「日本の春の姿」、「未来を担う希望」を感じて微笑ましくなるの私だけでしょうか。私の孫はまだまだでありますが、皆様のところのお孫さん、あるいは、若い人にとってのお子様は入学されたり、進級されたりしているかもしれません。
 そういう子どもさんたちと、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんに対する「わかば会の最大の入学祝い」は小児喘息患者さんのために新しい本を提供できることです。小児喘息患者学入門は合同出版から、いくら何でもこのわかばが皆様のとこに届く頃には出版されていることでありましょう。私の原稿分の校正や口絵、薬の写真の最終校正もとっくに終わって、松本先生担当分の図の最終訂正や文章校正が一部残っていました。それも松本先生は最速でやったはずなのですが、上野社長ではなく担当者から「こう修正しましたがいいですか?」という原稿がIT通販部気付、松本先生宛に送られてきたのです。IT通販部からメール便で事務所に回ってきました。けんろく診の外来に出かける前に受け取ったので松本先生に回しました。私たちは「いつも自宅に送ってくるのに、どうしてこんなに遠回りするのかな」と思いました。松本先生は「訂正しなくてもよい。これでよい」とTELされたそうです。「今頃一体何をやっているのか?」と思うのですが、事情があったのでしょう。世の中はうまくいかないことも多くあります。
 しかし、いずれにせよ、間もなく出来上がり販売ルートに乗るでありましょう。夢ら丘さんの絵本もやがては登場し、幼児、小児向けの「ステキなプレゼント」となるでありましょう。家系に喘息のお子さんをお持ちの方は、プレゼントとして以上をご利用下さい。
 児童、生徒の「喘息罹患率」は過去最高となりました。昨年12月発表の文部科学省の調査データを右ページに紹介しました。10年前と比較すると倍以上になっているのです。幼稚園、小、中、高とも全てが増加しています。成人喘息も重症者は減り、通院を頻回にしなければならない患者は減っていますが、富士山の裾野のように軽症患者は広がり増加しています。日本人の25人に1人が喘息であるという時代に突入しました。そういう春を迎えたのです。

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 わかば会は新しい会員を迎えました。更新をして頂いた方も多くおられます。春一番の仕事としては、①小児喘息の増加に歯止めをかけたり、よりよい医療や管理を受けて頂けるよう、小児喘息関係の新著を普及することです。②3月号で紹介した肺炎双球菌肺炎予防のためにニューモバックスを注射したり、まだ寒いこともあるので風邪を引かないようにしたり、肺炎にならないように気をつけましょう。③5月に開催される成人喘息ゼミナールには63名以上の申込み者(3月24日現在)あります。成人喘息患者が最もよくなるように1泊2日で講習を受けることができるチャンスです。全国的に学習できる唯一の場なのです。しっかりとよくする方法を学び身につけ、交流しましょう。④インターネットの「喘息をよくするためのホームページです」は90万アクセスを3月中に突破し、100万の大台に向かっています。これも日本でトップを走っているのでありますが、日本で初めて100万の大台に到達する喘息のサイトとして、全国、全世界の日系人喘息の人のため役立っていきましょう。
 最後に⑤として、全身管理を呼びかけます。私も含めて1年ずつ桜も人も「わかば」も年をとります。癌、成人病、その他余病を併発しないよう、検診を大事にしながら、頑張って元気にいきましょう。

171. 2006喘息最新の治療

喘息をよくし治すために(171)
喘息大学学長 清水 巍

 春爛漫、春たけなわですね。わかば会にとって最もよい季節「5月のわかばのようになりたい」という願いからつけられた名前そのものの5月がやってきました。草花も木々も若葉が芽吹き花の競艶もあります。
 5月という月がよいというのは季節だけでなく、長い間喘息大学が開催されてきた思い出の深い月でもあり、喘息の人にとっても最もよい月と言えるでありましょう。
 今号は「2006喘息最新の治療」と題して、第5回成人喘息ゼミナールで私の記念講演があるのですが、そのエッセンスの概要をここで紹介することにします。5月はそういう中味を伝える月であり、受け取ってもらえる月として、よい月だと思って頂けるるかもしれません。
 併せて今号の体裁を変えてみました。ITわかばの会員さんから、「真ん中で2つに別れていると見にくい」という意見があったのです。ITの人はどうか、会報わかば(冊子で受け取る人)はどうか。御意見を伺うために実行してみました。松永編集長(以前の編集長)から「このようにした方がよい」と言われ、現在の形式を続けてきました。時代は変わるのですから、変化や発展があってもよいでしょう。しかし、それは会員全体が受け入れられる進化であることが必要です。
 紙面にしても喘息の治療にしても、その時点の最新・最良を目指したいものです。

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① 発症と寛解の経緯

アレルギアNo.34/2005(日本アレルギー協会発行)で、南岡山医療センターの高橋清院長が報告されています。小児喘息を100とすれば成人喘息が140、小児喘息は70%が寛解し、30%が成人喘息に移行するけれども、20%の再発があり、結局は50%が寛解、50%が成人に移行すると発表されています。
 これは貴重なデータなのですが、では140の成人喘息、50%の小児喘息既往の人はよくなったり、寛解しないのかということです。
 喘息発作で死んでしまう人がいます。厚労省のデータから見つけた貴重な表を後の方に紹介しました。1950年には約1万6000人、1990年には年間約6000人が死亡していたのに2004年には3283人に減少しました。総数、男女、年齢別です。
 これは喘息治療の進歩を意味します。もっと減るようにし、そして皆様方がその中に入らぬよう2006年の治療を紹介します。

② 最新の治療の留意点

 第1は、気管支拡張剤だけに頼らないようにするということです。セレベント(長時間作動型吸入気管支拡張剤・緑色のアンパン型吸入器)の使用上の注意改訂が出たのです。それを徹底する意味で、喘息死の表の後に医学的記事として紹介しました。
 炎症を抑える吸入ステロイド剤と併用してのみ使って下さいということです。米国の調査で、セレベントのみ単独使用の人に喘息死が多いことがわかったのです。皆さんもメジヘラやメプチンエアー、ストメリンD、ベロテックさえあればよいとして、死んで行った多くの人のことを覚えているでしょう。それと同じことをしていてはならないということで、当たり前のことです。ホクナリンテープ単独使用も同様に注意すべきということであります。
 第2は、ステロイド吸入もフルタイド、パルミコート、キュバールが使われる時代に入っており、自分に一番よいものを一番よい適切な量で使用するということです。増減は状態によって変更は有り得ます。
 第3、はセレタイド、シンビコートという薬剤が出れば、それを試してみるということです(まだ使えません)。パルミコート懸濁液は小児喘息に朗報とやがてなるでしょうが、イギリス、スウェーデンでは成人にも使われています。
 第4は、このような新時代にふさわしい新時代の知識を「わかば」「成人喘息ゼミ」でしっかり学び、最良のコントロールを目指すことではないでしょうか。

③ 根本的には

 炎症を抑えるのはステロイド吸入だけでしょうか。違うというのが私の主張です。先の表の小児喘息が寛解率50%もあるのはステロイド吸入のせいでしょうか。成長と自然治癒力の増加によるのです。ステロイド吸入だけでは根本的に治らないし、薬を減らしたり、中止することができないのです。減らしたり中止すると再発したり、リモデリング(不可逆的な再構築)が進むと、学会では言われています。
 新潟の「ゆきつばき会」の人々の経験は典型的です。全員が喘大卒業生です。毎年交流会を開催し、私を講演に呼んでいます。その人たちの真情というか恩情というかをひしひしと感じます。拙たない私を命の恩人というような扱い、親戚の人が来たような毎年の歓迎なのです。「1日1フキしかステロイド吸入していない。止めれると思うけど念のためしています」「新潟の主治医に君が一番よくなった。君だけは治ってきたと言えるとホメられた」などの話が全員から出るのです。だから毎年集まるのです。そして、更によくなっていくのです。「考え方」や「生き方の変化」、交流がよくし、治していっている典型です。2006年の最新・最良の治療の1つに、こうした根本も含めた講演をゼミでさせて頂きます。

172. 年をとりながら大切なこと

喘息をよくし治すために(172)
喘息大学学長 清水 巍

 前月号の編集後記に次のように書きました。覚えておられるでしょうか?「すこやか検診が始まりました。全身チェックは重要です。多くの人に便ヒトヘモグロビン(便に人の血が出ていないか)を調べて、陽性の人に大腸ファイバーを沢山したところ、4人も早期の大腸癌が見つかったのです。もし、やっていなかったらとゾっとしました」と書きました。
 どうして私は精力的に全身チェックを勧めたのでしょうか。実は私も検診で引っかかったのです。今年2月10日に職場検診がありました。3月22日に結果が届きました。そこにはなんと、「要精密検査:①前立腺癌疑い、PSA4.1(4.0までが正常)、②便ヒトヘモグロビン2つのうち1つ陽性、大腸ファイバーをすること、③眼に関して要受診」とあったのです。晴天の霹靂(へきれき)とはこのことです。
 ひょっとしたら前立腺癌?大腸癌?眼底の異常の始まり?他人事だと思っていたのに「私も年か」と思いました。精密検査を受けずにもしものことがあったら、何と批判されるか分りません。「医者で他人には勧めながら」と言われることは明かです。3月24日に当院の泌尿器科を受診しました。エコー検査の結果「問題なし」「3ヶ月後PSA再検」と診断されました。眼の方は一昨年に白山に登った時にサングラスを持って行かず、その後に飛蚊症となったので(今は治った)、精密検査を受けていました。その時の所見と比較し、変化無しと言われました。問題は大腸ファイバーの検査です。「先生、ひどい検査ですか?」と患者さんに問われるたびに、「気管支ファイバーと並んでひどいらしいですよ」と言ってきました。それを自分も受けるのです。
 「検査がいくらひどくても、時間が経てば終わります」が、「大腸癌。手術要」と言われたらどうしようと考えなければなりませんでした。胸水が貯まって初診で来た50代の男性が、肺癌、肺転移、脳転移、手術不能という例も経験したばかりです。5月の第5回成人喘息ゼミナールが終わってから手術してくれと言うことに腹を決めました。鮎の友釣りを今年は諦めて、闘病生活かなどという考えも頭をよぎりました。
 大腸ファイバーで検査をした時に、早期癌やポリープがあった場合には切除して翌日まで入院、検査の次の日には安静を指示されるのが普通です。それで検査の日を予約しなければならないのですが、私の呼吸器外来予約がずーっと入っていて、検査の日や次の日の安静日の予定が取れないのです。「仕方がない、次の日休む必要があれば急な休みにして、代診を立ててもらう」ということにして、4月26日に検査を受けました。ジアゼパム(ホリゾン)の静脈麻酔を(胃ファイバーではしたことないのですが)してもらい、臨みました。私はビールをよく飲んできたせいか、麻酔の注射はほとんど効きませんでした。缶ビール350mlを1本飲んだ後くらいの感覚で、自分の大腸の画面をモニターで見せてもらい会話しながらの検査でした。3mm×4mmの大腸ポリープがあり切除してもらいました。おかげさまで癌ではなく、普通の腺腫とのことでした。5mm以下のポリープは癌にならないのだそうです。首がこうして連ながって、無事を報告できることになりました。術前、術後も楽でした。大腸ファイバーも城北でするのがお勧めかもしれません。
 前立腺のPSAという腫瘍マーカーも、3ヶ月後の検査では1.4に下がっていて、これも幸運でした。この話は結論が出るまで、患者さんには誰にも言わず、ゼミの時に「私の体験」ということで初めて公表させて頂きました。これまでも全身精査を勧めてきましたが、「癌があっては大変だ」ということで一層熱心に勧めてきたのです。私も無事でしたが、4人の早期の大腸癌の人も救えたのです。
 私の恥ずかしい経験ですが、わかば会員にとっても「他山の石」にして頂ければと公表した次第です。年をとれば、「今までに経験しなかったこと」を経験することになります。検診を受け早期発見、早期の治療をするということは大切なことではないでしょうか。多くの会員を救えればと「わかば」に書きました。
 成人喘息ゼミナールも無事に終え、2冊の小児喘息の本も発刊することができ、5月末から東京の新宿である日本アレルギー学会、有楽町の国際フォーラムである日本呼吸器学会に参加してきます。神奈川県にいる孫(10月には金沢に戻るらしい)に会いに行ってきます。1才の誕生日の手形が届きました。

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 娘に「孫のプライバシーの侵害をしないで頂戴」と言われているのですが、手形の公開くらいしても許される?と思って公開します。1才を過ぎてどんな顔になり、どんな風にやんちゃになっているのでしょうか。見に行くのが楽しみです。皆さんも身に覚えのあることでありましょう。それが終わると鮎の解禁です。
 色々とあるにしても、年をとるにしても、無事であること、楽しみを味わっていけることは感謝ではないでしょうか。感謝しつつ生きれるということこそ、「年をとりながら大切なこと」でありましょう。次のページも要注意です。

173. 訃報から学ぶ

喘息をよくし治すために(173)
喘息大学学長 清水 巍

 最近、2005年(H17)喘息で死亡された日本人の速報値を入手しました。3196人でした。年々減少しているのです。ステロイド吸入薬の普及や薬物療法の進歩、ガイドラインの浸透、私たちの患者会活動やホームページの影響もあって、かつては6000人と言われた年間死亡者が半分近くになりました。ということは、喘息の人も喘息では死ななくなったということです。
 喘息死は年間死亡総数に占める割合(%)は0.3%となりました。これは喜ぶべきことであります。しかし、では喘息の人は死亡しなくなったかというと、そうでもありません。他の病気や原因で死亡する人が増加しているということであります。最近、東と西の患者会の巨星が逝ってしまったのです。私もショックであり、どうしてあの人がと思いました。残念な報告ではありますが、追悼の念を捧げると共に、痛恨の教訓から学んで頂く必要があると考え、この欄で警告を発する次第です。
 関東喘息患者会連絡会事務局長の瀧深さん(埼玉・喘大5期生)が亡くなられたという報が入ったのは5月27日(土)午前のことでした。電話を入れたところ、娘さんが出られました。病院では「喘息死」とされたとのことでありました。私は外来の最中だったものですから、日喘連会長の西村さんに対応をお願いしました。関東交流会を立て直すのに大きな功労のあったお一人です。

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 上の写真は、左から酒匂さん、向田さん、小倉さん、瀧深さんで交流会時のものです。人なつこい、かつては中学校の先生でした。最近はソフト開発の仕事を「夢工房ウエルカム」という会社名でしておられたのです。
 奥様から電話があり、奥様は喘息死ではないと確信していると話されました。お話を伺って、私も「過労死」であると確信しました。
 朝まで毎日仕事をし、皆んなを見送ってからソファーで寝てしまうという毎日だったそうです。その日の朝もそうだったそうです。夕方、娘さんが家に帰り、見ると呼吸していなかったお父さんでした。着衣も乱れず、吸入した気配もないという話でした。喘息で苦しければ吸入くらいは絶対に手許に置く人だったというのです。
 このところ、患者会にもHPの掲示板にも顔を出さず、夢のソフトの開発に没頭し、食べることも寝ることも不摂生になった結果、心臓が止まったのでありましょう。日常のコントロール、バランスをとることの大切さが遺訓であります。
 西の巨星は川真田さんです。6月17日(土)の深夜、訃報に接しました。徳島いきいき会の会長さんで喘大12期生の元高校の校長先生でありました。
 丹田式腹式呼吸の特別講演を喘大でして下さり、「ワッハッハ」と笑うことが健康にも良いし、腹式呼吸にもなると説かれました。
 説得力のあるお話にはいつも敬服し、世界史の先生でもあったことによる博識ぶりには驚嘆させられたものです。退職後は、川真田農園と患者会、ホームページの運営をなさっておられました。徳島県勝浦川で鮎釣りを講演後にさせて頂き、川真田農園を訪問した時の写真が下のものです。

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 独特の健康法を実践しておられましたから「癌にはならない」と思っておられたのではないでしょうか。喘大23回交流会のフィナーレを終えてしばらく後に、大腸癌が進行していたことを知り手術をされました。相当のショックを受けられたようであります。「壺中の天」という本(川真田さんの貴重な著書)からは想像もつかない現実でした。幸い、再発も転移もなく経過しておられました。
 6月12日に、食あたりのような症状と何らかの感染症から、多臓器不全にあれよあれよという間に進んでしまったと、息子さんのメールにありました。ご本人にしたら納得がいかなかったことでありましょう。
 会員の皆様にこのような訃報の例を紹介しましたのは、お二人が偉い人だったからということではありません。人のお世話もし、十分にいろいろと分かっている人であっても、死というのは思いがけないところからやってくる・・・・という事実と教訓をお知らせしたかったからです。
 ワールドカップのサッカーの試合が話題になっている時でもありますが、シュートはどこから入ってくるか、試合中どこに欠陥が露呈してくるかわからないということです。しかし、サッカーに実力があるように、人の生き死ににも気をつければ、早期発見や早期の対策に成功し延ばすことができるのではないでしょうか。
 私も偉そうなことは言えず、いつどうなるかわからないのですが、「人とはそういうものである」という認識に立って、健診を受けたり、早期発見の重要性を前号で書きました。今号では、お二人に感謝を捧げると共に、その遺訓を会員にお知らせしなければと書かせて頂きました。

174. 第14回喘息克服月間を前にして

喘息をよくし治すために(174)
喘息大学学長 清水 巍

 6月の梅雨の時期に北陸はほとんど雨が降らず、「今年は空梅雨か?」と言われていました。金沢では「弁当忘れても傘忘れるな」という格言があったのですが、傘など忘れてしまって結構という日々でした。
 四国や九州地方に大雨、洪水注意報をいうのをよく聞いていたので、お見舞いの言葉をこの「わかば」に掲載しなくてはと思っていたら、北陸や山陰地方に梅雨前線が停滞し、長雨が続いてしまいました。「今までで過去数年最高に土砂災害の危険が高まっている」という報道をよく聞くのですが、過去にこの程度の雨はなかったのでしょうか。雨の量が問題ですが、山や岡のブナや灌木の落葉が減少し、貯水能力が失われていること、コンクリートの用水や道路が増えて、水が地面に浸み込まず川に流れ込むなどの問題があるのではないでしょうか。
 天候の問題と同時に、地球温暖化を含め人災による環境悪化、人間の対策不足も一因になっているかもしれません。9、10,11月は秋への気候の変わり目、ダニの風化の増加の季節、喘息発作好発季節です。薬物療法の進歩やダニ対策の進歩、色々な啓蒙活動によって喘息死は過去最高に(統計が日本で取られ始めた以来ではありますが)減少し、昨年は3,196人でした。喘息での入院も減り、重症患者が減り、発作を起こす人も少なくなりました。しかし、喘息死は6,000人台だった長い時期の半分になっただけで、3,000人台で足踏みしています。経口のプレドニンなどの全身性ステロイド錠を2錠、3錠と毎日飲み、ステロイド吸入、セレベント吸入、内服フルコースという人も全国には沢山いて、新たに喘息を発症する人、悪化したり、重症化する人も後を絶ちません。
 自然災害や環境、天候に対する対策が進んだように見えても、まだまだ改善の余地があります。喘息に対する対策は進歩しましたが、まだまだ改善の余地や対策が必要であります。第14回喘息克服月間は、喘息治療が進歩したと言われる中でも、一層の前進や充実を目指して取り組む意義があるのではないでしょうか。
 秋に新水社という女性向けの本を次々と出版している出版社から、私の喘息の「女性向け」の本が出ます。その本を執筆して思ったことですが、皆さんはどう思われますか?
 それは、経口ステロイド(全身性ステロイド)の毎日の投与の問題と、月に1回とか週に1回程度の来院時に点滴し、アミノフィリン125mg(テオドールで言うと100mg1錠)と、オルガドロン0.5ml(約プレドニン2錠計10mg)の投与を受けてスッキリ、快適にするという問題です。どちらが患者さんにとってよいだろうかということです。
 プレドニン2錠分の点滴を受けてスッキリ、快適になるという人なら、それを毎日投与しないのは、治療不十分(アンダートリートメント)ではないかという意見があるのです。それで、毎日1錠ないし2錠を毎日投与するのが必要だと患者さんも医師も思い投与しているケースが多いのです。
 私の意見は「そうすれば症状がよくなることぐらい百も承知している。しかし、毎日依存していたのでは、それ無しでは生活できなくなるのではないか。自分の副腎が副作用から身体を守るために働かなくなるし、悪くなれば更にプレドニンの増量が必要になってくる」というものです。1週間に1回や月1回の通院時投与ならその副作用は無く、自分の目標とすべき状態が分かり、通院も楽しみとなり、やがてそれ無しにもっていく指導も可能になると思うのです。
 それなら週1回、月1回、プレドニンを飲んで頂くよう、「持たせておけばよいではないか」という意見もあります。ついつい飲んでしまうということが起こらないでしょうか?医師と相談したり、診察を受けたり、指導を受ける必要はないのでしょうか。私は、診察そして投薬というのは、ただ薬をもらうためだけではないと考えて診察しています。「患者さんがもっとよくなるように、長く健康な生活を送れるようにするために」という目的でお会いしているのです。
 スピリーバという肺気腫の人によく効く薬を使って、効果が上がっています。タバコを止めない人には私は投与しません。タバコによる苦しさを自覚しないで、止めようとしないで薬を出せば、止めなくても済むように一時的にはなります。そしてやがてはスピリーバが効かなくなり、もっとひどい肺気腫に進行します。切り札はやたら切るものではなく、有効に使うべきと考えますが、いかがでしょうか。
 このような考え方の外来ですので、プレドニン1錠を毎日服用している人は、前医から依存していた人だけであり数人です。1000人ぐらいの喘息患者さんの通院されるとこで数人です。他の医療機関の先生の話を聞くと、1割以上が(私のとこで言えば、100人以上)が1錠以上だと言う先生もいるのが日本の現状です。私は、喘息大学、喘息患者会、この会報「わかば」、本、患者教育、喘息克服月間に依存しているおかげで、少ないのだろうと思っております。
 喘息克服月間も14回目を迎え、来年は第15回目です。ホームページのアクセス数も100万を突破し、アドレスも間借りではなく、自分の家を持ち、表札も『http://zensoku.in』とわかりやすくなりました。質的に高いものを求めていく段階に入ったのではないでしょうか。北陸3県交流会、茨城、東京、金沢での交流会でお会いしましょう。交流で更に磨きをかけあっていくことも、この月間の目的です。

175. 喘息どっちっち?

喘息をよくし治すために(175)
喘息大学学長 清水 巍

 “世界丸ごと質問箱”というのをNHKのラジオ放送でやっています。私も車に乗っていて聞くことがあるのですが、「今、朝ですか?それとも夜ですか?どっちっち?」から始まって、色々な事柄が地球のあちこちの国でどうなっているか、電話の生放送で伝えてくれます。「色々な考え方があるんだな」と感心します。
 それに習って、「喘息どっちっち?」というのを4つの点でやってみたいと思います。時、折しも第14回喘息克服月間に突入する9月です。今回は「レベルアップを目指す」ということをテーマとします。喘息の治療法は皆さんによって違いがあるのは当然ですが、評価としては2つあるのです。
 先月号にも書きましたが、1つは治療不十分(アンダートリートメント=低い治療)の場合があります。「自分ではこれで良いとか十分だと思っていても、もっと適切な薬を増やしたり、追加していく必要がある」場合です。その反対は過剰治療(オーバートリートメント=多すぎる治療)です。アンダーは低い、オーバーは過剰というのはお分かりでしょう。トリートメントというのは治療の英語です。薬を減らしても大丈夫なのに、「心配だ、先生が減らすなと言ったから」と、使い過ぎている人もいるのです。私は外来でよく「石橋をたたいて渡る」例を挙げます。落ちないような橋のように頑丈になれば、いちいちたたいて渡らなくてもよいのだから、それと同じように薬を減らすこともやってみましょう、と話をします。
 「レベルアップを目指す」ということは、アンダーの人は追加を試みることです。オーバーの人は減らすことを試みることです。適切で100点満点の人は、減らすことも検討し試みればよいのです。そのためには自分の現状を正確に把む必要があります。これまでも紹介してきましたが、12ページからの「喘息コントロールテスト」をやってみて下さい。
 25点満点ならトータルコントロール達成です。オーバートリートメントでないか、薬を減らす検討、試みが可能となります。ステロイド吸入以外をまず減らし、最後にステロイド吸入の回数や量を減らすことに挑戦するのです。ピークフローメーターで測定しながらやるのが大切です。20~24点なら順調(ウェルコントロール)ですが、もう一工夫いるということです。20点未満ならアンダートリートメントであり、レベルアップを目指さなければなりません。
 私のところは、外来ですべての人に、全国各地の講演会では参加者に試みて、真のレベルアップを目指します。11月18日(土)の午前は特別の外来を組み、午後は無料の「小児・成人喘息レベルアップ講習会」をします。是非、参加してください。
 あなたは、「アンダー?オーバー?適切?どっちっち?」でしょう。

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 次にステロイドの吸入の値段と種類どっちっち?です。キュバールが一番高く、パルミコート200μgが一番安いのです。ここまで調べたり公開している表はないでありましょう。秋に出る「女性向けの本」(新水社)に掲載するつもりで私が調べました。わかばでいち早く公開します。長く続ける薬剤ですから、効果と値段を「どっちっち?」とよく見比べる必要があるのではないでしょうか。試してみるのも1つの方法です。この検討もレベルアップに繋がることではないでしょうか。『財布のレベルアップ』だけに無理につなげるのではなく、財布と相談をしながらコントロールのレベルアップを目指したいものです。
 第3のどっちっち?は副作用の減少の問題です。ステロイド吸入の副作用の喘鳴、声枯れ、食道、胃、口腔カンジダ症を予防することは大切です。食前の吸入、うがいを勧めてきました。毎食後3分以内に歯磨きをすることもよいことです。これで殆どの人がうまく行っていました。
 15ページに周東先生の発表を紹介しました。水で口を潤し、水を飲むというのが追加されています。牛乳を先に飲み、粘膜を潤すという体験を公開したことがありました。それと同じ理屈です。参考にしてください。このようにレベルアップを目指すことこそ、喘息克服月間の目的です。
 最後の4つめは、「レベルアップを目指します?どっちっち?」です。全会員が行事に参加してレベルアップを目指して下さい。

176. 各地の組織強化について

喘息をよくし治すために(176)
喘息大学学長 清水 巍

 ようやく涼しくなってまいりました。秋風が吹く頃になると、喘息発作が好発してきます。私たちの外来に何年かぶりで喘息が悪化したと言って来られる人、新患として来られる人が増えています。皆様の喘息の調子はいかがでしょうか。ホームページへのアクセス数がドメイン取得(自分の家と住所を持ち家として持ったようなもの)で、アドレス変更になって、アクセス数が落ちていましたが、また増加に転じてきました。
 このような、状況の中で第14回喘息デー・喘息克服月間が開催され、10月21日には日本喘息患者会連絡会の総会が福岡で、また各地の交流会が開催されます。
薬物療法の進歩やガイドラインによって、コントロールしやすくなったとは言えるものの、喘息死は1977~97年当時からみて半分になっただけであり、患者数は増えて日本有数の呼吸器疾患であり、取組の重要性が失われているわけではありません。
 全国的に喘息患者会のあり方を見直したり、よく再検討すべき時にさしかかっているのではないでしょうか。喘息大学が脚光を浴びて、全国から多数の申し込みがあり、各地に喘息患者会が設立されて行った状況とは時代が違ってきています。その当時は病院との協力があったり、無かったりしても患者会が各県各地に設立され、役員会が構成され、会報が出されてきました。その県や地区では大きな貢献をしてきました。
 現在の段階での問題点を挙げてみます。
① 喘息の薬物療法が改善し、困る人が少なくなって喜ばしい時代となった。
② 役員の高齢化が進み、マンネリ化、後継者不足が起こっている。役員会や会報の発行の負担がある。
③ 若い人は患者会に参加することを好まない傾向にある。
 その他にも問題点はあるかもしれませんが、以上の3つの傾向は今後も続くと考えられます。
 そのような中で、北海道の喘息をよくする会は終了し、仲間の人たちが年に2回くらい集まる親睦会のような身軽なかたちに変身しました。先月号の「わかば」に掲載されたように名古屋の「ひまわり会」が106号の会報で21年の歴史を閉じ、年1回程度の親睦会に引き継がれることになりました。福島県の「きびたき会」は会員へのアンケートを出して、会員継続を望む34名の人で再出発することになったそうです。それなりに再編や軌道修正が、その地区に応じて行われています。

時代や状況は変化するものであり、それに応じて喘息患者会が変わっていくのは当然のことでありましょう。現在の日本喘息患者会連絡会に正式加盟している患者会のリストを掲げました。最盛期は38都道府県55患者会が参加していました。その時と比べると少なくはなりましたが、34都道府県41患者会が残っています。よく健闘していると言えます。

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 今後の方針(案)
① 活発さの度合いは異なるものの、存在するところは、今後の継続と発展を模索する。
② 親睦会に姿を変えたところは、それを今後も継続する。
③ 患者会の無い県で、これから喘息患者会を立ち上げるというのは困難なので、わかば会員によって支部を作ってはどうか。
 ③が新しい提案です。どこまでうまくいくかは分かりません。これはまだ正式の方針ではなく、討議するための案の段階です。日喘連総会やわかば会役員会で検討されて「ボツ」になるかもしれませんし、もっといい案が生まれたり、提案されて決定されるかもしれません。
 メリットとしては全国すべての県にわかば会員は存在しますので、数名で結成することが可能です。役員会は定期的なものは必要ではないでしょうし、会報の発行も不要です。「わかば」があれば繋がりが持てるのです。大学の同窓会各県支部などを想像すればよいでしょう。年に1回くらい支部で交流会が持てたり、会員を増やす活動ができるかもしれません。
 以前は各県に独自の患者会を作る方針のために、わかば会支部として小さくまとまる提案をしてきませんでした。これからは、各県わかば会支部の提案があってもいいのではないでしょうか。支部長や副支部長くらいは必要になるかもしれませんね。
 来年の5月19日(土)、20日(日)には金沢の都ホテルで、日喘連総会・喘大第3回同窓会・第6回成人喘息ゼミがあります。そこでも検討しましょう。

177. 2006の冬に備える

喘息をよくし治すために(177)
喘息大学学長 清水 巍

 街路樹の色づきが日に日に進んでおります。寒さの影響で大自然も冬に備えるべく、身づくろいを始めました。落ち葉も増加しています。2006年の冬に備えているのです。
 私たちも、この冬でひとつの年輪を刻むわけですが、無事に乗り切るだけでなく、よりよく乗り切って、年はひとつ取ったにしても、よりよい春を迎えたいものです。
 喘息の人はまず、この秋の深まりと共に進む「喘息悪化」の季節を上手に乗り越えていく必要があります。そのために、11月18日「レベルアップ講習会」を土曜日に行います。第3週の土曜なので、通常は外来の無い日なのでありますが、第2、第4は通常の外来として患者さんを診察し、第3は喘息の患者さんのためのレベルアップな診療に役立てます。小児、成人ともに、午後には無料の講習会があります。「そんな案内要らない」「なんで外来で喘息コントロールテスト(Athma Control Testの略がACT)などやるんや」という非難もありながら、クスリを減らしたり、状態をよくするために指導を計画しました。島根、東京、茨城から申し込みがあります。外来に「丁寧な案内を有難うございます」と申し込みをされる人もおられました。
 第2に「女性向けの本」である「ぜんそく」というのが新水社から出版されました。女性自身が喘息をよくするようにということは勿論、御主人や子どもさんが喘息の場合、御家族や近所、会社や知り合いに喘息の人がいた場合にどうすればよいか、書いてあるのです。女性を念頭において書いたためか、私に似合わず文章も中身も優しくなっているのです。
 11月3日(金)には、中日新聞系朝刊や東京新聞の健康欄に「女性向けの本・ぜんそく」や私の喘息の考え方も紹介されました。関西交流会も含めて、この秋を喘息をよくする大きな機会にしたいのです。福岡の講演会の機会に展望を見い出された「おゆきさん」のHPへの書き込みを紹介しました。「1人でも困っている人がいれば、その1人のために動く」という福岡の瀬川さんの言葉は、今後私たちの合い言葉にしていく必要があるのではないでしょうか。
―――インフルエンザ・ワクチンの接種を―――
インフルエンザを最大限に予防するために、世界的に努力されている記事を下に紹介します。有効性が認められ、日本ではいろいろなサービスが行われるようになりました。

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 全国どこも同じなのかどうか分かりませんが、金沢では65才以上の高齢者の人には接種券が送られ割引価格で受けることができます。60才以上の障害者も同じです。
 城北病院や石川民医連の院所では自費接種の場合1回分を2,500円、2回目を2,000円という料金設定にしてあります。保険は効かず私費払いですから、地方や病院によって手数料などに違いがあり、料金は様々です。

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 城北病院には「金沢北健康友の会」というのがあり、寺井病院には「健康友の会南加賀」、他の院所にも「友の会」組織があります。高血圧や糖尿病、喘息等ありとあらゆる疾患でかかっている方が左のような案内の活動を行っています。くらし、医療、介護を守る運動や院所への協力活動を行っています。その会員の自費接種の方は今年から一律1,500円ということになりました。小児の2回接種の場合は、1回目・2回目とも1,500円です。院所友の会会員を増やす一環でサービスが行われるのです。11月中に新たに入会された方は、今年度会費は無料です。詳しいことは外来の「健康友の会コーナー」で説明していますので、そこでお聞き下さい。
わかば会員にもそのようなサービスが提供できるとよいのですが、院所の友の会に入る人が居なくなってしまうため、現在のところそこまでのサービスはありません。会計前に「健康友の会」入会コーナーで11月中に入会され、会員券が発行されれば割引が行われます。わかば会員の人から不公平感が出たり、疑問が出たりすると困るので、事前に情報提供をさせて頂いた次第です。多くの人が接種を受けて流行を防ぎたいものです。この際、「健康友の会」についても紹介をしておくべく左上記に掲載しました。
 それに加わるかどうかは、全く自由意志であります。ただ、みんなで連帯し医療制度や介護保険制度、福祉、くらしを守っていく運動を強化することは必要です。
 日、一日と寒くなります。インフルエンザだけでなく、普通の「カゼ」も流行するでしょう。この冬を喘息発作もなく乗り越えて、暖かな来年の春を元気で迎えようではありませんか。

178. 2006年を振り返って

喘息をよくし治すために(178)
喘息大学学長 清水 巍

 もう今年最後の月を迎えることになりました。月、日の過ぎるのは早いもの、「年齢を経てくると、より早くなる」というのを私も実感しますが、皆様はいかがでしょうか。
 今年の1月には「わかば会・新年会」が、ホテルイン金沢でありスタートしました。3月には県知事選、私の大腸ポリープ騒動、4月の桜の咲く頃に愛知の方々が金沢にお見えになり、新潟での交流会がありました。5月には第5回成人喘息ゼミナールが66名の参加で開催され、その夜は「小児喘息患者学入門」、「ぜんそくさん、ありがとう」の小児喘息関係の出版記念祝賀パーティが87名の参加で行われました。
 この秋の「第14回喘息デー・喘息克服月間」は北陸3県交流会に始まり、鳥取、愛知・岐阜、茨城、福岡、関東、石川の小児・成人喘息レベルアップ講習会へと続き、いずれも沢山の参加を得て成功しました。福岡での瀬川さんの「1人でも困っている人がいれば、その1人のために私たちは動く」という言葉は、日喘連総会の成功と相まって貴重なものです。関東の盛り上がりも軌道に乗ってきて頼もしい限りです。
 城北診療所で11月18日に行われた「成人喘息レベルアップ講習会」には石川県内の新患の人だけでなく、島根、京都、岐阜、福井、富山から2名、長野、東京から2名、茨城と全国からの参加がありました。役員の人や若い病院職員がボランティアで、無料の講習会を開き、患者さんのレベルアップをお手伝いするということは、貴重であり美しいことではないでしょうか。全国的にそういう試みは「まれ」になっているのです。参加した人たちは「吸入の仕方が間違っていた」「よくなった人の話が聞けて希望が持てた」と、参加したればこその収穫を得ていたようです。
 これから先の人生の日々が貴重になっている時、オリンピックと同じように「参加することに意義がある」のではないでしょうか。この「わかば会」が喘息をよくし、治していくことに役立ち、みんなでよりよく生きていくことにこの1年役立ってきました。それを確認しながらも、来年がよりよいものになるよう、みなさんの参加で充実させていきたいものです。
 来年の新年会は1月28日(日)金沢駅前の都ホテルであります。第6回成人喘息ゼミナールと第3回喘息大学同窓会は5月19日(土)、20日(日)に開催されます。来年は「ぜんそく」(新水社)と私の新しい著書(これまでの歩みを綴ったもの)の出版記念パーティがある予定です。「ぜんそく」もそうですが、新しい本はいつも正月の3日間で書いてきました。新しい著書も3日間で努力する予定です。そうすると5月の出版に間に合います。
 来年もお互いの喘息をよくするため、より健康な人生と生き甲斐のある貴重な日々実現のために努力を続けましょう。
 薬について「2006」年がどうだったのか、振り返ってみることにしましょう。下の写真と説明は「ぜんそくさん、ありがとう」(愛育社刊)から引用したものです。

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 1)のパルミコート懸濁液は9月号の「わかば」14ページの「医学的新情報」で紹介しました。もう小児喘息に使われています。ヨーロッパでは、成人喘息に使われている国もあるのですが、日本ではそこまではなかなかいかないでありましょう。しかし、小児喘息患者の中等症持続型や重症持続型の治療には朗報です。
 2)のセレタイド(セレベントとフルタイドの合剤)は今年度に発売され、日本で使用許可になるだろうと期待されていたのですが、来年にずれ込むようです。これは残念な話であります。合剤は欧米で相当に効果を上げていると聞いていますので、日本で使用されるようになれば、皆さんにとって喜ばしいことです。セレタイドという名前になって発売されるだろうと言われていたのですが、違う名前になるようです。アメリカではアドベアーという名前で発表されているようですし、色々と事情があるのでしょう。アメリカでは、そのエアゾル噴霧製剤が出るというニュースを次ページに紹介しました。それは、巡り巡ってやがて日本にも上陸するのです。
 このように、薬についても進歩と残念なことがありました。皆さんにとって、この2006年はいかがだったでしょうか。振り返りつつ、来年はよりよい年になるように御一緒に忙しい年末を過ごしましょう。